はしか(麻疹)は、麻疹ウイルス(Measles virus)によって引き起こされる急性の小児感染症であり、世界的にも最も感染力が強いウイルス性疾患の一つです。適切なワクチン接種が普及する以前は、ほぼすべての小児が罹患するとされ、重症化すると肺炎や脳炎を合併し、時に死亡に至ることもありました。

麻疹ウイルスはパラミクソウイルス科に属し、感染者の咳やくしゃみで放出される飛沫や空気中のエアロゾルを介して伝播します。潜伏期間は通常10~12日ですが、症状の出現直前から感染力を持つため、流行が急速に拡大しやすい特徴があります。初期症状は高熱、ぜんそく様の咳、鼻水、結膜炎などの「三徴候」を示し、典型的には38~40℃の高熱が数日続きます。

発熱後3~4日目には全身に紅斑性の発疹が現れ、耳の後ろや顔面から始まり、体幹や手足へと拡大します。発疹は融合しやすく、やがて褐色を帯びて消失します。口腔粘膜に見られるコプリック斑(白い粒状の斑点)は、麻疹に特異的な所見として診断の手がかりになります。

合併症としては、乳幼児や免疫不全者で中耳炎、肺炎、脳炎が起こりやすく、脳炎後遅発性合併症である亜急性硬化性全脳炎(SSPE)は数年後に致死的経過をたどる危険性があります。世界保健機関(WHO)によれば、合併症により年間数万人が死亡しており、特に発展途上国では予防の遅れが重篤化を招いています。

診断は臨床所見に加えて、血清中の麻疹ウイルス特異的IgM抗体の検出や、喀痰・咽頭ぬぐい液からのウイルス分離、PCR法によるウイルスRNA検出などで確定します。治療は主に対症療法で、十分な水分補給、解熱剤、必要に応じて抗生物質による二次感染予防などを行います。ビタミンAの投与は合併症リスクを軽減すると報告されています。

予防には、麻疹ワクチン(通常は麻しん・風しん混合ワクチン:MRワクチン)が極めて有効です。2回接種で90%以上の発症予防効果が確認されており、集団免疫を獲得することで地域内での流行を抑制できます。日本では生後12~24か月、ならびに入学前の二期接種が定期接種として推奨されています。

世界的にはワクチン普及率の向上により麻疹罹患数は減少傾向にありますが、一部の地域ではまだ流行が継続しており、近年はワクチン接種率の低下や医療提供体制の脆弱化に伴い再流行のリスクが高まっています。国際的な広域流動が増加する現代において、各国で一層の予防努力が求められています。

まとめると、はしかはワクチン接種を中心とした予防が極めて重要な疾患であり、流行を完全に抑制するには高い接種率の維持と早期診断・適切な対症療法が不可欠です。特に乳幼児や免疫不全者を保護するためにも、全世代でのワクチン接種率向上が喫緊の課題といえます。

■はしか(麻疹)の主な特徴 1. 高度の感染力:飛沫・エアロゾルで感染し、同居者の90%以上が感染する。 2. 潜伏期10~12日:症状出現前後から感染力を保持し、集団内で急速に拡大。 3. 臨床三徴候:高熱・咳・結膜炎に加え、コプリック斑や紅斑性発疹が特徴的。 4. 合併症リスク:乳幼児や免疫不全者で中耳炎、肺炎、脳炎、SSPEなど重篤化。 5. ワクチン予防:MRワクチン2回接種で90%以上の予防効果、集団免疫の維持が重要。 6. 世界的流行:ワクチン未接種地域で流行が継続し、輸入症例による再流行リスク。 7. 診断法:血清学的検査(IgM抗体)、ウイルス分離、PCRによる確定診断。

■参考文献・リンク 1. 厚生労働省「麻しん(はしか)について」 https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou13/ 2. 世界保健機関(WHO)「Measles Fact sheet」日本語版 https://www.who.int/ja/news-room/fact-sheets/detail/measles 3. 国立感染症研究所 感染症疫学センター「麻しん」 https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/109-measles.html 4. CDC「Measles (Rubeola)」 https://www.cdc.gov/measles/index.html (英語) 5. MSDマニュアル家庭版「麻しん(はしか)」 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/感染症/ウイルス感染症/麻しん 6. 日本小児科学会「予防接種とワクチン」 https://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=94

投稿者 wlbhiro

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