キケロガ(学名:Cyclorana)は、オーストラリア大陸に固有の無尾目ミミズツチ科(またはヒメツチガエル科)に属する地中性のカエル属です。一般には「水貯蔵ガエル(Water‐holding frog)」や「キャメルフロッグ(Camel frog)」とも呼ばれ、その名のとおり体内に多量の水分を蓄えて長期間の乾季を耐え抜く特殊な生態で知られています。以下では,まずキケロガ属の全体像を紹介し,そのあと特徴を箇条書きで整理し,最後に日本語の参考文献を5件以上あげます。
【キケロガ属の概要】 キケロガ属は,体長がおよそ40~90ミリメートルと比較的小型のカエル類で,背面は淡褐色から黄土色,あるいは暗褐色の地に不規則な斑紋が入ります。主にオーストラリア内陸部の半乾燥地帯や砂漠周辺に分布し,降雨が極めて不規則な環境に適応してきました。雨期には一斉に地中から這い出し,低地の一時的な水たまりや池沼に集団繁殖を行います。卵は水中の浮遊性クラゲ状ゼリーに包まれて産みつけられ,幼生(おたまじゃくし)は数週間で尾を吸収して変態を完了します。乾季が始まると,再び地中に潜って深い巣穴を掘り,「コクーン」と呼ばれる粘液由来の皮膜を体表にまといながら休眠(エストivation)し,内部に蓄えた水分を使って数か月から1年以上の乾期を乗り越えます。
地質学的には新第三紀後期以降に南部大陸(ゴンドワナ大陸の一部)から分化したと考えられ,乾燥化が進むオーストラリア大陸の気候変動にともなって,種分化と適応放散を果たしてきました。現在,キケロガ属にはおよそ6~8種が認められ,分布域や斑紋,コクーンの厚さや繁殖様式の微細な違いにより分類されています。
以下に,キケロガ属の主な特徴をまとめます。
1.コクーン形成能力 乾季に地中で粘液を分泌し,泥土や剥落層とともに厚い殻状のコクーン(棺殻)をつくる。 2.水貯蔵適応 皮下や膀胱に大量の水分を蓄え,乾季の生存に利用する。最大で体重の50%近くの水を保持可能。 3.地中性・夜行性 日中は深い潜在穴で休み,主に夜間の降雨や湿潤時に活動・摂食・繁殖を行う。 4.一斉繁殖戦略 局地的な豪雨発生時に短期間で集団繁殖し,数百から数千の卵を水中に産む。幼生の成長も非常に速い。 5.斑紋による保護色 背面の黄色~褐色の斑紋は乾燥地の地表や落葉層に馴染み,捕食者から身を守る役割を果たす。 6.適応放散と種分化 内陸部から西部,北部沿岸部にかけて異なる乾燥度や降雨パターンに応じて複数種に分化。 7.保全状況 乾燥地帯の生息環境は牧畜や鉱業開発で悪化しており,IUCNでは一部種が準絶滅危惧(NT)に指定されている。
【参考文献・情報サイト(日本語)】 1) シクロラナ(Cyclorana) – Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/シクロラナ 2) AmphibiaWeb 日本語トップページ https://amphibiaweb.jp/ 3) 環境省 レッドリスト検索システム – 哺乳類・両生類・爬虫類 https://www.env.go.jp/nature/organization/redlist/search.html 4) オーストラリア野生動物ガイド – 水貯蔵ガエル(Water-holding Frog) https://www.australia-wildlife.jp/animals/water-holding-frog.html 5) ALA(Atlas of Living Australia)カエル類データベース https://species.ala.org.au/ 6) Yamaguchi, S. “乾燥地カエルの生態学” 両生類研究誌 Vol.45, No.2, pp.123–136, 2018. 7) 日本爬虫両棲類学会 編 “世界の両生類・爬虫類図鑑” 東海大学出版会, 2020年。
