# オレキシンとは

オレキシンは、主に脳の視床下部外側野に存在する神経細胞が産生・放出する神経ペプチドです。オレキシンという名称は、ギリシャ語で「食欲」を意味する言葉に由来します。一方で、オレキシンは睡眠と覚醒の調節にも深く関係しているため、発見当初から食欲だけでなく、覚醒状態、エネルギー代謝、情動、報酬行動などに関わる重要な物質であることが分かってきました。オレキシンは「ヒポクレチン」と呼ばれることもあります。現在では、オレキシンとヒポクレチンは基本的に同じ物質を指す名称として扱われています。

オレキシンには、オレキシンAとオレキシンBという二つの主要な種類があります。これらは、オレキシン前駆体と呼ばれる一つのタンパク質から作られます。オレキシンAとオレキシンBは、脳内のさまざまな神経細胞に信号を伝え、覚醒を維持したり、身体が活動できる状態を整えたりします。オレキシンを作る神経細胞の数は脳全体の神経細胞の中では少数ですが、脳幹、視床、前脳基底部、辺縁系など、覚醒や感情に関わる広い領域へ神経線維を伸ばしています。そのため、少数の神経細胞でありながら、脳全体の状態を調整する大きな影響力を持っています。

オレキシンは、主にオレキシン1受容体(OX1R)とオレキシン2受容体(OX2R)に結合します。オレキシンAは両方の受容体に作用し、オレキシンBは特にOX2Rへの作用が強いとされています。これらの受容体が活性化されると、ノルアドレナリン、セロトニン、ドーパミン、ヒスタミン、アセチルコリンなど、覚醒に関係する神経伝達系が活性化されます。その結果、人は眠気を抑え、周囲の環境に反応し、集中し、行動を続けやすくなります。

通常、オレキシン神経は、起きて活動している時間帯に活性が高くなります。一方、眠っている時間帯にはオレキシン神経の活動が低下します。この仕組みは、覚醒状態と睡眠状態を安定させる働きを持っています。オレキシンの働きが十分であれば、目が覚めている状態を適切に維持できます。しかし、オレキシン神経が失われたり、オレキシンの働きが大きく低下したりすると、覚醒を安定して維持できなくなる場合があります。

オレキシンの不足と深く関係する代表的な病気がナルコレプシーです。ナルコレプシーは、日中に強い眠気が生じ、本人の意思とは関係なく眠り込んでしまうことがある睡眠障害です。特に、感情が大きく動いたときに力が抜ける「情動脱力発作」を伴うナルコレプシーでは、脳脊髄液中のオレキシン濃度が著しく低下していることがあります。ただし、日中の眠気には睡眠不足、薬剤、うつ病、睡眠時無呼吸症候群など、ほかの原因も存在します。そのため、眠気が続く場合には自己判断で原因を決めず、睡眠を専門とする医療機関で検査を受けることが重要です。

反対に、オレキシンの受容体を抑える薬は、不眠症の治療に利用されています。スボレキサント、レンボレキサント、ダリドレキサントなどの「オレキシン受容体拮抗薬」は、覚醒を維持するオレキシンの作用を弱めることで、自然に近い睡眠を促すことを目的としています。これらの薬は医師の処方が必要であり、眠気、ふらつき、悪夢、翌朝の眠気などの副作用が起こる可能性があります。また、薬の種類や体質によって適切な使用方法が異なるため、処方された用法・用量を守る必要があります。

オレキシンは食欲やエネルギー代謝にも関係しています。空腹状態やエネルギー不足のときには、オレキシン神経の活動が変化し、食物を探す行動や活動性に影響を与えることがあります。しかし、オレキシンだけで食欲や体重が決まるわけではありません。レプチン、グレリン、インスリン、消化管からの信号、ストレス、睡眠時間、生活環境など、多くの要因が相互に作用しています。睡眠不足によって食欲や食行動が変化することがあるため、オレキシンは睡眠と代謝を結びつける仕組みの一部として研究されています。

このように、オレキシンは単なる「眠気を覚ます物質」や「食欲を高める物質」ではありません。覚醒、睡眠、食欲、意欲、報酬行動、ストレス反応、エネルギー状態を統合し、身体が現在の状況に適した行動を取れるように調整する物質です。今後は、ナルコレプシーや不眠症だけでなく、うつ病、依存症、肥満、代謝疾患、認知機能などとの関係についても、さらに研究が進むと考えられています。

## オレキシンの主な特徴

1. オレキシンは、視床下部外側野にある特定の神経細胞で主に作られます。 2. オレキシンには、オレキシンAとオレキシンBという二つの主要な種類があります。 3. オレキシンは、ヒポクレチンという別名でも呼ばれています。 4. オレキシンは、覚醒状態を維持し、日中の活動性や注意力を支えます。 5. オレキシンは、OX1RとOX2Rという二種類の受容体を通じて作用します。 6. オレキシン神経の機能低下は、ナルコレプシーと強く関係しています。 7. オレキシン受容体を抑制する薬は、不眠症の治療に使用されています。 8. オレキシンは、食欲、エネルギー代謝、食物探索行動にも関与しています。 9. オレキシンは、ドーパミンやノルアドレナリンなどの神経系と相互に作用します。 10. オレキシンは、睡眠と覚醒だけでなく、情動や報酬行動にも影響を与えます。

## 参考文献・参考情報

1. 厚生労働省「e-ヘルスネット:ナルコレプシー」 https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/

2. MSDマニュアル家庭版「ナルコレプシー」 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home

3. 日本睡眠学会 https://jssr.jp/

4. National Institute of Neurological Disorders and Stroke, “Narcolepsy” https://www.ninds.nih.gov/health-information/disorders/narcolepsy

5. National Center for Biotechnology Information, “The Orexin System” https://www.ncbi.nlm.nih.gov/

6. Scammell, T. E., “Orexin Neurons and Sleep/Wake Regulation,” *Neuron* https://doi.org/10.1016/j.neuron.2015.03.028

7. Sakurai, T. et al., “Orexins and Orexin Receptors: A Family of Hypothalamic Neuropeptides and G Protein-Coupled Receptors,” *Cell* https://doi.org/10.1016/S0092-8674(98)00098-8

8. 医薬品医療機器総合機構(PMDA) https://www.pmda.go.jp/

※オレキシンに関係する症状や治療薬については、個人差や他の病気との関係があります。強い日中の眠気、不眠、脱力発作などがある場合には、医師や睡眠専門医に相談してください。

投稿者 wlbhiro

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