タングステン合金とは、一言でいえば高融点・高密度を特徴とするタングステン(W)を主成分とし、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)などの金属を適量添加して成形・焼結した金属材料の総称です。純粋なタングステンは融点が約3,422℃と非常に高く、極端な高温環境下でも溶融しにくいという利点を持つ一方で、脆性が強く加工性に難があります。そこで、他の金属を混ぜ合わせることで強度や靭性を向上させ、さらに粉末を圧力成形後に高温焼結する粉末冶金技術を用いることで、複雑な形状や高い寸法精度を実現したのがタングステン合金です。
タングステン合金は主に以下のような特長を持ちます。まず、比重が約17.0~18.0g/cm3と非常に高いため、同じ体積の鉄のおよそ2倍、鉛のおよそ1.7倍の重さがあります。この高密度特性を利用して、重りやバランサー、慣性モーメントの調整部材として広く用いられます。また、タングステン本来の高融点性は合金化してもなお優れており、溶融した金属のろう付け材料や真空炉のヒーター、電子放出用フィラメント、航空宇宙分野の熱シールドなど、高温環境での使用用途が豊富です。
さらに、放射線遮蔽材としての応用も注目されます。ガンマ線や中性子線に対して高い遮蔽性能を示すため、医療用X線装置や放射線治療装置、原子力関連施設などで、鉛の代替材として活躍しています。加えて、磁性をもたない(非磁性)タイプのタングステン合金もあり、磁場を避けたい計測機器や電磁波障害対策として有用です。
近年では装飾用途や精密機械部品、スポーツ用機器(ゴルフクラブのヘッド重りなど)、さらには水中無人探査機のバラスト材など、多彩な分野でその特性が活かされています。製造方法としては、タングステン粉末と添加金属粉末を混合し、成形プレス後に真空または不活性ガス雰囲気下で高温焼結し、必要に応じて熱間・冷間加工や機械加工を施します。加工後の表面処理としては、黒染めやニッケルメッキ、金属蒸着などがあるほか、近年は3Dプリンター技術を応用した製造プロセスも研究されています。
用途と性能の幅広さから、タングステン合金は工業分野をはじめ医療、科学研究、軍事、宇宙開発など先端分野で不可欠の材料となっています。今後も高機能化・高付加価値化が進み、環境負荷低減や新規加工法の確立とともに、さらなる応用拡大が期待されています。
■ タングステン合金の主な特長(5項目以上) ・ 高密度(比重17.0~18.0g/cm3)による優れた重量・バラスト用途 ・ 高融点(約3,422℃)に由来する耐高温性・耐侵食性 ・ 放射線遮蔽性能の高さ(鉛よりも優れたガンマ線遮蔽効率) ・ 非磁性タイプの製造が可能で、磁場影響を受けない部品に適用 ・ 粉末冶金による複雑形状加工性と高い寸法精度 ・ 機械的強度・靭性の向上(Fe, Ni, Cuなどの添加による) ・ 電子放出フィラメントや真空炉部品など、真空・電子用途への適合
■ 参考文献・資料(日本語) 1. Wikipedia「タングステン合金」 https://ja.wikipedia.org/wiki/タングステン合金 2. 東邦チタニウム(東邦チタン株式会社)「タングステン合金製品」 https://www.toho-tungsten.co.jp/products/ 3. JFEテクノリサーチ「タングステンおよびタングステン合金」 https://www.jfe-tekkoh.co.jp/products/metal-alloy/tungsten/ 4. 住友金属鉱山「タングステン事業のご紹介」 https://www.smm.co.jp/products/metals/tungsten/ 5. 日本金属学会編『金属材料ハンドブック』第2版、丸善出版(タングステン合金章) ※書籍のためURL非掲載 6. 国立研究開発法人 物質・材料研究機構(NIMS)「タングステン合金の特性評価」 https://www.nims.go.jp/materials/tungsten_alloy/ 7. 日本非鉄金属協会「高機能金属材料研究会資料」 https://www.japan-nonferrous-metal.jp/research/high_function_materials.html