認知症とは、記憶や判断、言語理解、見当識(時間や場所の認識)、実行機能などの認知機能が持続的に低下し、日常生活や社会的活動に支障を来す状態を指します。単に物忘れが増えるだけでなく、本人や周囲の人間関係、生活リズム、社会参加に大きな影響を及ぼすため、早期発見と適切なケアが重要です。以下では、認知症の概要、主な原因、症状の進行、診断方法、治療およびケアのポイントなどを含めて詳しく解説します。
1.認知症の定義と特徴 認知症は、脳の神経細胞が変性・脱落することで引き起こされる「器質的疾患」です。加齢とともにリスクが高まりますが、若年層でも起こることがあります。WHO(世界保健機関)やDSM-5(精神疾患の診断基準)では、認知機能低下が日常生活に支障を来す場合を認知症と定義しています。
2.主な原因疾患 認知症は大きくアルツハイマー病、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などに分類されます。 ・アルツハイマー病:βアミロイドやタウタンパクの蓄積により神経細胞が障害される。 ・血管性認知症:脳血管障害による脳梗塞や出血が原因。 ・レビー小体型認知症:レビー小体と呼ばれる異常タンパク質が神経細胞内に蓄積。 ・前頭側頭型認知症:前頭葉や側頭葉の神経細胞が変性し、人格や行動が先に変化。
3.症状の進行と対応 初期には軽度の物忘れや判断力低下が見られますが、中期以降は見当識障害、失行・失認(道具の使い方や顔の認識が困難になる)、妄想や徘徊などのBPSD(行動・心理症状)が顕在化します。進行すると介護者による24時間ケアが必要になる場合もあります。
4.診断と検査 認知機能検査(MMSE、MoCAなど)や神経心理検査、血液検査、脳画像(MRI、CT、SPECT)を用いて他疾患との鑑別を行います。また、家族から日常生活動作(ADL)の変化に関する情報を得ることも重要です。
5.治療とケア 根本治療は未だ確立されていませんが、コリンエステラーゼ阻害薬やNMDA受容体拮抗薬による薬物療法で進行を緩和します。非薬物療法として、回想法、音楽療法、作業療法などの認知リハビリテーションや、環境調整、家族支援、介護者教育も効果的です。
6.予防と社会的支援 適度な運動、栄養バランスの良い食事、社会参加や知的活動はリスク低減に寄与します。地域包括支援センターや認知症カフェ、専門医療機関との連携による早期介入が推奨されます。介護保険制度や認知症サポーター養成講座の活用も重要です。
7.今後の展望 AIやICT技術を用いた早期発見ツール、血液バイオマーカーの研究、治療薬開発が進展中です。認知症は本人だけでなく家族や社会全体に影響するため、多職種協働によるトータルケア体制の整備が求められています。
【認知症の主な特徴(例)】 ・記憶障害:新しい出来事を覚えられず、同じ話を繰り返す。 ・見当識障害:時間や場所、人の関係性を正しく認識できない。 ・言語機能障害:言葉が出にくくなったり、適切な言葉を選べない。 ・実行機能障害:計画立案や問題解決が困難になり、料理や買い物ができない。 ・行動・心理症状(BPSD):妄想、幻覚、興奮、無気力、徘徊などがみられる。 ・人格変化:攻撃的になったり、抑うつ状態や無関心を示す。
【参考文献・サイト】 1. 厚生労働省「認知症施策加速化プラン」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000183216.html 2. 国立長寿医療研究センター「認知症疾患医療センター」 https://www.ncgg.go.jp/center/dementia/index.html 3. 日本老年医学会「認知症診療ガイドライン」 https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/pdf/guideline_2017.pdf 4. MSDマニュアル プロフェッショナル版「認知症」 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/neurologic-disorders/dementia/overview-of-dementia 5. 認知症の人と家族の会 https://www.alzheimer.or.jp/
※本稿は一般的な情報提供を目的としており、医療的診断・治療は専門医にご相談ください。