田中泯(たなか みん)は、日本を代表するダンサー、振付家であり、身体を通じて自然や社会と対話する独自の舞踏表現を確立したアーティストである。1951年、神奈川県鎌倉市生まれ。幼少期から身体表現に興味を抱き、大学在学中に舞踏家・土方巽(ひじかた たつみ)と出会い、彼の影響のもとで自身の身体性を追求し始めた。1974年に舞踏グループ「大駱駝艦(だいらくだかん)」の創設メンバーとなり、拠点を大阪に移して活動。1980年代以降はソロダンサーとして国内外での公演を重ねるとともに、1985年に「ボディ・ウェザー・ラボラトリー(Body Weather Laboratory)」を立ち上げ、身体研究の場を提供して幅広い世代のダンサーを育成した。
田中泯の舞踏は、あらかじめ振付を固定しない「即興(インプロヴィゼーション)」を核とし、身体の自然な動きを最大限に引き出す手法を特徴とする。公演会場に限らず、森やビルの谷間、工場跡地などの“非劇場空間”で繰り広げられるサイトスペシフィック(場所特定型)パフォーマンスは、観客に舞台美術を不要とさせるほど身体そのものが場と対話し、時間と空間を変容させる。1990年代以降はパリ、ロンドン、ニューヨークなど世界各地で招待公演を行い、欧米の前衛舞踊シーンにも大きな影響を与えた。
90歳を過ぎた今なお国内外でワークショップや公演を続ける田中泯は、身体の緩やかな動きや呼吸、地面との接触を通じて、自然界の風や音、水の揺らぎとシンクロするような舞踏を展開する。身体を削ぎ落としながらも豊かな物語性を内包し、観る者に身体存在そのものの豊かさと儚さを同時に思い起こさせる。また、環境保護や地域コミュニティと連携したプロジェクトにも積極的に参加し、アートを通じた持続可能な社会づくりにも寄与している。
田中泯の受賞歴には、文化庁芸術祭大賞(1997年)、紫綬褒章(2005年)、毎日芸術賞(2010年)、日本芸術院賞・恩賜賞(2018年)などがある。また、東京芸術大学客員教授として後進の指導を行い、世界中に弟子を持つ。身体を「実験装置」と位置づけ、舞踏を「生きることそのものの探求」と考える彼の姿勢は、多くのアーティストや研究者にとってインスピレーションの源である。
以上のように、田中泯は単なるダンサーや振付家を超えて、身体性と環境・社会との相互作用を探求し続ける現代アートの巨匠である。
■ 主な特徴(5つ以上) 1. 即興を基盤とした身体表現:決まった振付を用いず、現場の状況に応じて動きを生成。 2. サイトスペシフィック・パフォーマンス:劇場だけでなく自然空間や廃墟での公演を多く手がける。 3. ボディ・ウェザー・ラボラトリー創設:身体研究の実験場としてワークショップを世界中で開催。 4. 環境や地域コミュニティとの連携:アートを通じた持続可能な社会づくりに貢献。 5. 呼吸・重力・地面との接触への徹底的なこだわり:身体と自然要素の共鳴を追求。 6. 国際的評価と受賞歴:文化庁芸術祭大賞や日本芸術院賞など多数受賞。 7. 教育者としての顔:東京芸術大学客員教授として後進育成にも注力。
■ 参考文献・ウェブサイト 1. 田中泯 オフィシャルサイト https://mintanaka.com/ 2. Wikipedia「田中泯」 https://ja.wikipedia.org/wiki/田中泯 3. 朝日新聞デジタル「田中泯インタビュー:身体は地球と響き合う」 https://www.asahi.com/articles/DA3S14293450.html 4. 毎日新聞「舞踏家・田中泯氏に聞く」 https://mainichi.jp/articles/20200915/ddm/012/200/040000c 5. 公益財団法人セゾン文化財団『現代舞踏最前線』連載 https://www.saison.or.jp/news/butoh/ 6. 東京都美術館「田中泯 特別講演会」 https://www.tobikan.jp/event/2022/12/tanaka_min.html
