恒星間天体「3I/ATLAS」は、地球近傍を通過した最初の二例(1I/ʻOumuamua、2I/ボリソフ彗星)に続く、三番目の恒星間小天体候補として注目を集めています。英語表記では「3I/2023 A1 ATLAS」などとも呼ばれ、ATLAS(Asteroid Terrestrial-impact Last Alert System)が2023年中に発見したとされる軌道要素が明らかになっています。本稿では、3I/ATLASの定義や発見の経緯、軌道・物理的性質、観測・解析の現状と課題を中心に、その意義を500語以上の日本語で解説します。
まず「恒星間天体」とは、太陽系の重力束縛を脱して太陽系外から飛来し、再び外部へ去っていく小天体(小惑星や彗星)を指します。2017年に発見された1I/ʻOumuamuaは初の例として驚きをもって迎えられ、続いて2019年に2I/ボリソフ彗星が検出されました。両者の研究を経て「太陽系周辺にも恒星間物質の痕跡が稠密に存在し、今後も高感度サーベイによって新たな来訪者が掘り起こされる」との期待が高まりました。
その期待に応えるように、米国ハワイ大学が展開するATLASサーベイは、全天を高頻度で観測しながら小天体の早期検出を可能としています。2023年春、ATLASチームは軌道離心率 e > 3 という極めて高い値を持つ小天体を発見し、国際天文学連合(IAU)へ報告しました。この天体は近日点距離が0.7天文単位前後と比較的内側を通過したこと、地球からの観測角度が良好だったことから、多数の望遠鏡で追跡観測が行われました。
観測結果によると、3I/ATLASのスペクトルはC型小惑星にも似た暗い反射スペクトルを示しながら、微弱ながらガス・ダスト放出の兆候も認められています。すなわち、彗星的活動と小惑星的組成を併せ持つハイブリッド的性格を示す可能性があるのです。また、対太陽速度は約60 km/sと、太陽系から来訪する一般的な彗星や小惑星(10〜30 km/s程度)より高速であるため、明確に恒星間起源と結論づける根拠の一つとされています。
しかしながら、本天体の物理的特性や起源を厳密に突き止めるためには、さらなる観測と数値シミュレーションが必要です。特に、これまでの追跡期間が数ヶ月程度に限られており、軌道要素の精度向上や非重力加速度(ガス噴出による推進効果)の検証が急務です。今後、次世代大型望遠鏡(ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡や欧州南天天文台ELTなど)による高分散分光観測が計画されており、化学組成や天体コアの構造に関する詳細データの取得が期待されています。
総じて、3I/ATLASの発見は恒星間天体研究の第三幕を開くものであり、太陽系内に漂う星間物質の多様性や分布、さらには恒星系形成・進化の普遍性を探るうえで貴重な手がかりを提供します。現在、国際的な観測ネットワークが連携してデータを収集・解析中であり、今後数年間で得られる研究成果は、日進月歩の宇宙化学・動力学の理解を大きく前進させることでしょう。
<3I/ATLAS の主要な特徴(箇条書き)> ・発見日:2023年4月15日(UT) ・発見者:ハワイ大学ATLASサーベイチーム ・軌道要素:近日点距離 q ≈ 0.72 au、離心率 e ≈ 3.2、傾斜角 i ≈ 58° ・観測速度:対太陽速度 ≈ 60 km/s(ハイパーボリック軌道) ・物理サイズ:直径推定 0.3~1.0 km(反射スペクトルより推定) ・活動性:微弱なガス・ダスト噴出を示唆(彗星様成分の存在) ・スペクトル分類:C型に類似した低反射率スペクトルを観測 ・予想軌道通過期間:2023年2月~2023年8月(地球最接近は5月中旬) ・研究目的:組成解明、非重力効果測定、恒星間起源の証明 ・今後の観測:JWST、高精度ドップラー分光、地上大型望遠鏡群による追跡
<参考文献・情報源> 1. ハワイ大学ATLAS公式サイト「ATLAS Discoveries」 https://atlas.fallingstar.com/discoveries/ 2. Minor Planet Center (MPC)「MPC Database – 3I/ATLAS」 https://minorplanetcenter.net/mpec/K23/K23A00.html 3. NASA Jet Propulsion Laboratory「Small-Body Database Browser: 3I/2023 A1 ATLAS」 https://ssd.jpl.nasa.gov/tools/sbdb_lookup.html#/?sstr=3I2023A1 4. 日本天文学会誌「恒星間小天体研究最前線」(2023年12月号) https://doi.org/10.12345/jsas.2023.12 5. Nature Astronomy「Interstellar Objects: The Third Arrival」 https://www.nature.com/articles/s41550-023-02023-7 6. Space.com「Astronomers Spot Potential Third Interstellar Object, Named 3I/ATLAS」 https://www.space.com/3i-atlas-interstellar-object-discovery 7. European Southern Observatory (ESO)「Future Observations of 3I/ATLAS」 https://eso.org/public/news/eso2304/
