パーキンソン病(Parkinson’s disease)は、中枢神経系の進行性変性疾患であり、主にドーパミンを産生する黒質(substantia nigra)の神経細胞が徐々に減少することによって発症します。一般的には、50歳以降に発症することが多いものの、若年性(40歳未満)に発症する症例も認められます。日本国内では約17万人(推定)以上の患者がいるとされ、高齢化社会の進行に伴い今後も患者数は増加すると予測されています。

パーキンソン病の主な病態は、黒質ドーパミン神経細胞の脱落により脳内のドーパミン濃度が低下し、大脳基底核の機能異常が生じることです。この結果、運動調節機能に支障をきたし、典型的には振戦(ふるえ)、筋固縮(こわばり)、無動(動作が遅くなる)、姿勢反射障害(バランスを崩しやすくなる)という4大主徴を特徴とします。これらは「パーキンソニズム」と総称され、患者の日常生活動作(ADL)や生活の質(QOL)に大きな影響を及ぼします。

非運動症状も重要な臨床的特徴です。嗅覚障害、便秘、睡眠障害(レム睡眠行動障害など)、自律神経障害(起立性低血圧、排尿障害、発汗異常)、認知機能障害やうつ症状など、多彩な症状が見られます。非運動症状はしばしば運動症状に先行して現れるため、早期診断の手がかりとなる場合もあります。

診断は主に臨床症状に基づきますが、近年ではDatSCAN(ドパミントランスポーターSPECT)などの核医学的検査やMRIを併用して、他のパーキンソニズム(薬剤誘発性パーキンソニズム、進行性核上性麻痺など)との鑑別を行います。ただし、確定診断は病理学的に神経細胞内にレビー小体(α-シヌクレインを主成分とする異常凝集蛋白)が認められた場合であり、生前の100%確定診断は困難です。

治療の基本は薬物療法であり、レボドパ(L-ドーパ)製剤を中心に、ドーパミンアゴニスト、MAO-B阻害薬、COMT阻害薬、抗コリン薬などを組み合わせて使用します。病状の進行に伴い「ウェアリングオフ」や「ジスキネジア(異常自発運動)」といった副作用が現れることもあり、長期的な用量調整や新規治療法の導入が必要となります。近年では、深部脳刺激療法(DBS)や免疫療法、細胞移植研究などの新しい治療戦略も検討されていますが、標準的治療として広く実用化されるには至っていません。

患者さんや介護者には、服薬管理の徹底だけでなく、理学療法や作業療法、言語療法などのリハビリテーションが重要です。また、栄養管理や便秘対策、睡眠衛生の確保、環境整備など多方面からの多職種連携が必要となります。患者のQOLを維持・向上させるためには、医療機関だけでなく地域資源や家族の協力が不可欠です。

以上のように、パーキンソン病は運動症状だけでなく非運動症状を含めた全身的なマネジメントが求められる複雑な神経変性疾患です。今後の研究や技術革新によって、より根本的な治療法や予防法の確立が期待されています。

主な特徴(特徴的症状や所見) 1. 振戦:安静時に手や足が振える現象が見られ、片側から始まることが多い。 2. 筋固縮:筋肉のこわばりが生じ、関節の動きが抵抗感を伴う。 3. 無動・寡動:自発的な動作が遅くなり、表情筋の動きも乏しくなる(仮面様顔貌)。 4. 姿勢反射障害:バランスを崩しやすく、前かがみ姿勢やすくみられる。 5. 非運動症状:便秘、嗅覚低下、睡眠障害、自律神経症状(排尿障害、起立性低血圧など) 6. 薬物治療の副作用:ウェアリングオフ(効果の持続時間短縮)、ジスキネジア(異常自発運動)

参考文献・情報源 1. 国立精神・神経医療研究センター「パーキンソン病」 URL: https://www.ncnp.go.jp/nimh/disease/parkinson/ 2. 日本神経学会「パーキンソン病診療ガイドライン」 URL: https://www.neurology-jp.org/guidelinem/parkinson/ 3. 厚生労働省「難病情報センター パーキンソン病」 URL: https://www.nanbyou.or.jp/entry/233 4. MSDマニュアル プロフェッショナル版「パーキンソン病」 URL: https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/神経障害/神経変性疾患/パーキンソン病 5. 日本パーキンソン病協会 URL: https://www.parkinson.gr.jp/ 6. メルクマニュアル家庭版「パーキンソン病」 URL: https://www.merckmanuals.com/ja-jp/home/神経疾患/パーキンソン病/概要-パーキンソン病

投稿者 wlbhiro

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