「FOD」とは、英語で「Foreign Object Debris(異物混入物)/Foreign Object Damage(異物損傷)」の略称で、主に航空産業や製造業の安全管理分野で用いられる用語です。空港や整備場、機体周辺などに落ちているネジ、金属片、石、工具やゴム片などの“異物”が、航空機のエンジンやタイヤ、機体構造に入り込むことで損傷を引き起こし、最悪の場合は事故や運航停止をもたらします。FODは「外部から持ち込まれた異物による被害」という意味合いを持ち、その防止対策は年々高度化・体系化されてきました。
航空機エンジン内部に金属片が吸い込まれると、回転部品を破損させて振動を増幅し、最悪の場合はエンジン停止に至る恐れがあります。地上では、滑走路を高速で走るタイヤが小石を跳ね上げ、機体下面を傷つけたり機体吸気口に異物を吸い込ませたりします。整備場や格納庫では、工具やボルト、作業中に外れた部品などが簡単に見落とされることもあります。こうした小さな異物が重大な機材故障や人的被害を招くリスクがあるため、FOD管理は航空安全の最前線を支える重要なプロセスです。
FOD対策の基本は「異物の発生を未然に防ぐ」「発生した異物を速やかに発見・回収する」の二本柱です。具体的には、作業エリアを明確に区画し、作業前後の“見える化”チェックリストを厳守。工具はトレーやキャビネットで管理し、使用後は必ず元の場所へ戻す“トランジェントラック”方式を採用します。また、滑走路や誘導路の定期清掃には高性能な掃除機やローラー式クリーナーを導入し、可視光・赤外線カメラによる異物検知システムやドローン点検も試験的に運用が拡大しています。
加えて、全従業員・協力企業に対するFOD教育・訓練も欠かせません。安全講習会で実物の異物による被害事例を共有し、模擬訓練を繰り返すことで“常に異物を意識する文化”を醸成します。これらの対策により、航空会社や空港運営会社は、FODによる事故・トラブル件数を年々削減し、安全運航の信頼性を高めています。
以下に、FODの主な特徴をまとめます。
・発生要因の多様性:滑走路上の自然落下物、整備工具の置き忘れ、部品摩耗粉などさまざまな起源がある ・被害形態の深刻度:小さな異物でもエンジン吸い込みやタイヤパンク、大規模機体損傷を招く可能性がある ・予防策の段階性:区画管理→工具管理→定期清掃→自動検知システム →教育訓練の階層的対策が有効 ・技術導入の進展:赤外線・可視光カメラ、ドローン巡回、自律走行クリーナーなど新技術が普及中 ・組織文化との融合:単なる作業手順ではなく「安全文化」の一環として全員参加で運用
参考文献・参考サイト(日本語・日本で入手可能な情報を中心に): 1. Wikipedia「FOD」(異物損傷) https://ja.wikipedia.org/wiki/FOD 2. 日本航空(JAL) 空港安全情報「FOD対策について」 https://www.jal.co.jp/airport/safety/fod/ 3. 国土交通省 航空局「FOD対策ガイドライン」 https://www.mlit.go.jp/koku/hanjyo/koku_anzen/fod_guideline.pdf 4. FAA(米国連邦航空局)「Foreign Object Debris (FOD) Prevention」 https://www.faa.gov/airports/airport_safety/fod 5. Boeing「FOD Prevention」 https://www.boeing.com/commercial/nac/fod/